出会い‐Ryoma Echizen‐ (入学式から遅刻なんて最悪だよぉ) 真新しい制服に身を包み、自慢の長い髪が向かい風で乱れるのも気にもせず、少女は桜が立ち並ぶ道を走っていた。 少女の名前は赤月巴。父親はスポーツ界では有名なスポーツドクター兼トレーナー。幼い頃から父親のようになりたくて中学からは父親の出身校である青春学園に進学、父親の友人で元プロテニスプレーヤーの越前南次郎宅にこの春から居候させてもらうことになった。荷物は先に送ってあり、巴は入学式当日に朝一番の新幹線で来る予定だったが、寝坊して乗り遅れたのだった。 煉瓦作りの校門を抜け体育館へ。体育館の扉は閉められ中からは誰かは分からないが祝辞を述べる声が聞こえてきた。 (やばっ! もう始まってるし!) 扉が開いていればこっそりと中に入るつもりだった巴は、潜入を諦め式が終わるのを待つことにした。その間、校内を探検してみようと、体育館とは反対方向へと歩き出したのだった。 「わあ! すっごくキレイな教会!」 北校舎を過ぎ、その奥に広がる憩いの森。その中にその教会はあった。学園の敷地内に建っていて管理も学園が行っているが、生徒が入れないように普段は鍵がかけられている為、ここを訪れる者はほとんどいない。巴も試してみたが鍵が掛かっていると分かり外観を楽しむ事にした。 「そうだ! 写真に撮っておこうっと♪」 ポケットから取り出した携帯でカメラモードを起動、教会全体がフレームに収まるように少しずつ後ろへと下がっていく。 (あと、もうちょっとで……)「わあっ!」 あと少しでキレイに収まると思い一歩下がった所で足に何かが当たり、巴はそのまま後ろへと転んでしまった。だが、ドスンというような衝撃と音は聞こえず代わりに聞こえたのは蛙が鳴いたような変な声だった。 「っいた…くない? それに今の声って」 「……ねえ、どおでもいいけど退いてくれない? 重いんだけど」 「え!?」 自分の尻の下から聞こえた声に驚き、巴は転がるようにその場を退く。 声の主は木の幹に寄りかかり眠っていたらしい。幹から身体を起こし恐らく巴が乗りかかったであろう場所を軽く払って、巴を見る。 「な、なに?」 「喉渇いた。ジュース買って来てくんない?」 「は? はあ!?」 今初めて会った(正しくは巴が上に乗った)男の子からいきなりそう言われ、巴は素っとん狂な声を上げる。 「うるさい。いいから買ってきてよ」 「何で私が!」 「俺の眠り妨げた。それに俺に危害を加えたよね? その代償」 そう平然と告げる男の子。さも当然だという言い様に巴はカチンときて、謝ることも忘れ「バッカじゃないの! 飲みたいなら自分で買ってくればいいじゃない。サヨナラ」と言い捨てその場を後にした。 その後、新しい友人もでき、そして担任の先生はちょっと怖そうだなあーとこれからの学園生活に様々な想いを馳せ、先程の出来事はきれいサッパリに忘れ下宿先である越前家へと帰宅したのであった。 「「あっ」」 越前家の門前で二人の人物の声が重なる。 「なんでお前がここにいるわけ?」 「それはこっちの台詞! なんであなたが――」 「おーおー。早速痴話喧嘩か? 妬けるねえ」 二人の言い争いに割って入ったのは、この越前家の主である南次郎だった。 「親父」「おじ様」 またも声が重なる二人。気の合った?二人を見て南次郎は嬉しそうな表情のまま二人に居間へと来るように伝える。 「えー、あらためて紹介する。俺の悪友の赤月の娘である巴だ。これから3年間うちに下宿することになってる。リョーマ、惚れるのは構わんが手は出すなよ?」 そうニヤリと言い放つ南次郎にリョーマと呼ばれた男の子は「誰がこんな女に」とぼそりと呟く。 「で、こっちは俺の愚息のリョーマだ。帰国してまだ間もない。友達なんていねえから、巴、友達になってくれるか?」 「え? あっはい!」 そう思わず返事を返してしまった巴だが、昼間のことが脳裏に甦り笑顔が少し引きつる。 「さて。お互いの紹介も終わったことだし、今日は二人の入学祝だ。ぱーっとやるか♪」 そう言う南次郎にリョーマは「勝手にすれば?」と席を立ち、巴も「疲れたので」と席を立つ。 居間を出ると階段の所にリョーマが立っていた。 「学校で馴れ馴れしくしないでよね、迷惑だから。それと昼間の代償、早く払ってよね。それだけ」 そう言い放つとリョーマはさっさと自室へと階段を登る。巴はその発言にまたもカチンときて「それはこっちの台詞なんだから! べー!っだ」と舌を出しリョーマへと言い返す。 そのやり取りを、実はこっそりと越前家の大人達に見られていたことを二人は知らない。 -Ryoma01 fin- |