※あてんしょん:10年後のお話です。乱文が許せる方のみご閲覧ください。



「これあげる」
「え?」

無造作に渡されたのは拳大の四角い箱。リョーマからいきなり渡されたプレゼントに、巴は目を丸くした。

「これなに?開けていいの?」
「お前にやったもんなんだし、好きにすれば?」
巴の質問にそっけなく言い返して、リョーマが興味なさげに顔を背けた。

(…照れてるのかな?)

今のリョーマを見れば、誰だって彼を不機嫌だと捉えるところだが、巴はそうは考えなかった。
うまく説明はできないが、リョーマと近しい人以外には感じとれない雰囲気がそう物語っている。

(近しい人、か…)

思えば、リョーマと知り合ってから十年もの時が過ぎている。
出会った頃は中学生だった自分たちは、今や若くして第一線で活躍するテニスプレイヤーと、大学を卒業して半年たったひよっこスポーツトレーナーだ。

ただの下宿先の男の子であったはずのリョーマ。
それが自分とテニスのパートナーになって、好きになって、付き合い始めて、今に至る。
言葉にしてしまえば一言で終わってしまう中には、いろいろな出来事や感情が凝縮されている。
何度もすれ違い、喧嘩もした。
互いにわかりあえず、つぶされそうな悲しみで泣きじゃくった日もあった。
そして、それらを覆すほどの大きな喜び――彼を愛し、愛される幸せを知った。

(私たちがこんな風になるなんて、あの頃は到底想像できなかったよ)

じぃ、とリョーマを見つめると、自然と口元が緩む。

「何にやけてるの」
「な、何でもないよ」
「ふーん」
「えっと…あ、これ!遠慮なく開けるね」

不審げな視線を向けるリョーマを誤魔化すように、プレゼントの包装に使われている白色のリボンに手を伸ばす。
軽く引っ張ると、リボンはスルスルと簡単にほどけた。
箱の上蓋を持ちあげ、中身を取り出したところで、巴は息を飲んだ。


出てきたのは紺色の重厚な指輪ケース。


見るからに高級そうなそれは、ドラマや映画の中でしか見たことのない物だった。
震える手で蓋を持ちあげると、一粒のダイヤを印象的にあしらった、シンプルな形の指輪が鎮座していた。
大粒のダイヤが、光に反射して、キラキラと輝く。

「これ…」
「そろそろ、いい時だと思って」

言葉を失う巴の手から指輪ケースを取り上げ、指輪を取り出す。

「お前の心変わりなんて疑うわけじゃないけど、昔みたいに互いに長い時間会えないわけだし」

そう言ながらリョーマが巴の左手を取り、そっとくすり指に指輪を嵌める。
巴が呆けたように自分の指に嵌められた指輪をまじまじと見つめた。

「リョーマくんが、買ったの?」
「当たり前でしょ」
「だって…、似合わないよ」
「なにそれ」

巴の言葉に、リョーマが憮然とした表情を作る。
確かにこんな時に言う言葉じゃないと巴も思ったが、それと同時に赦してほしい、とも思う。
一体どんな顔をしてこの指輪を買ったのだろう。
似合わないジュエリーショップで。
彼が一人で。
どんな気持ちで。
全く想像がつかない。


「返すなんて言わないでよね」
「言わないよ…、バカ」


こんなときでもリョーマはぶっきらぼうに憎まれ口を叩く。
少しだけ心配そうなのは、やはり、長い付き合いを続けた人にしかわからない彼の感情。
巴はリョーマを安心させるように微笑みたかった。
けれど、感極まったように、巴の瞳には涙が浮かぶばかりで。

その巴の表情にリョーマがぎくり、と固まる。

一瞬だけ躊躇して、それでも決心したように口を開く。
彼からの精一杯の甘い言葉。


「これからもよろしく、巴」


リョーマの言葉に巴は目を見開いて。
こぼれた涙をそのままに、今度こそ巴は見惚れるような笑顔を浮かべると「はい」と大きく頷いた。




そいそ様

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