『良く或る話』



 人生は上々だ。
何て舐めた言葉を言った奴が居た様な気がする。
取り敢えず今の僕の目の前に居たら張っ倒して遣りたい事この上無い。
今の僕は今迄の人生に於いて稀に見る位不機嫌だ。
其れとも言うのも、居合わせてる人物が不愉快極まり無いからだ。
僕は今、病室に居る。
勿論僕の病室ではない。
青学の系列にあたる大学病院の一室に僕の良く知る人物が入院中なのだ。
左腕を治療中の我らが青学テニス部の部長様。
手塚国光の病室だ。

 僕は久々に手塚の見舞いに来ていた。
本来なら久々に手塚に逢えるのだから僕は上機嫌だったろう。
否、数分前に手塚の病室のドアを開ける瞬間迄は実際その通りだった。
しかし鼻歌混じりにドアを開けた瞬間、僕の気持ちは一変した。
ドアの直ぐ前には出来る事なら今一番逢いたくない人物が立っていたのだ。
お陰で只今微妙な空気に包まれる羽目になってしまった。


 何をするとも無しに微妙な空気が漂う病室。
真っ白な室内に居るのは異質な雰囲気を醸し出す四人。
皆、四人四様な態度だ。
ヘラヘラと愛想笑いをしつつ頻りに皆に話し掛けている忍足。
午前中の検査を終え病室で待機中の手塚。
そして無言状態で向かい合わせに立ち尽くしてる僕と跡部。

目の前で形成されている四角形な関係。

この奇妙な状況のお陰で僕の心情はこの上無く不愉快だった。

其れでも一応、僕は湛えていた。
何時もの柔和な笑顔を浮かべていた。
有りったけの自制心を総動員して耐えていた。
手塚の目の前でわざわざキレた自分を晒すのは少々考えものだったから。
しかし、本心は正反対だった。
かなりムカっ腹だった。
出来る事なら今直ぐ不快な感情の原因を張っ倒して遣りたかった。

【手塚の腕を容体を悪化させた原因の一因なくせに・・・。】

目の前に居る跡部を見据えながら僕は考えていた。
普段なら此処迄露骨な考えは浮かばない。
しかし正直、今の自分は冷静な判断も出来そうもない。
こんな考えが浮かぶ位に僕は不愉快だった。
何より跡部が この場に居るのが納得いかなかった(忍足は問題外だ)
どの様なつもりか解らないが今目の前に居るだけで不愉快だった。
何とか場を和やかにしようと頻りに話す忍足すら不愉快だった。
しかし当の不快の元凶は違った心持ちらしい。


『案外元気そうじゃねぇか、手塚。退屈の余り腕も鈍ってんじゃねぇか、あぁん?』

病室内に置かれている椅子にさも当然の如く腰掛けながら、跡部は独特の口調で話し始めた。
僕はと言えば、自分流をあくまで貫く跡部を見ながら、

【お前がそれを言うか?】

と内心激しく突っ込んでいた。
続け様に喋り続ける跡部に、努めてやんわりとした口調で僕は話し掛けた。

『ところで跡部、君は何しに来たんだい?』

しかし跡部は僕の気持ち等全くお構い無しな様だ。
寧ろ僕らのやり取りを見守っている忍足が笑顔の侭凍り付いていた。

『不二、てめぇ何ボケた事抜かして遣がる?見舞いに決まってんじゃねぇか、あぁん?』

如何やら俺様自分主義には直球以外通じないらしい。
無神経極まり無い言葉が返ってきた。
瞬間、僕の中でブチっと何かが切れた音がした。


『―――――どうやら言葉の意味を理解出来てないみたいだね。』

引き攣り笑いを湛えながら、僕は続け様に言った。

『こんなトコ迄ワザワザ見舞いに来るなんて・・・・・?』

冷えた瞳で跡部を見据えた。
此処迄言われて漸く気付いたのか跡部の眉毛が逆八の字に跳ね上がった。
場を沈黙が包むと同時に、向かい側からキツイ眼差しが僕を見返していた。
しかし流石とも言うべきなのだろう。
人並みだったら其の侭黙り込んでしまう様な空気の中、跡部は逆に切り返してきた。

『不二、てめぇ何が言いたい?』

悠然と足を組み替えながら言葉を吐き出した跡部は、僕と同じ位冷え冷えとした瞳で見つめ返してきた。
切れ味抜群の双眸が真直ぐ僕を見据えていた。

『君が来る必要も居場所も無いよ、此処には。判らないかな?』

あくまで微笑みを湛えながら、僕はやんわりと言葉を返した。
しかし挑発には十分な語意だった。

『何だとてめぇ!』

跡部は柳眉な顔を歪め、僕の胸倉を掴み掛かってきた。
殴られるかと思い、身を竦めた瞬間。

『煩い!』

正に鶴の一声の様な一喝が病室に響いた。
声の主は手塚だった。
其れ迄何も言わずに居た手塚だったが、流石に耐えられなかったらしい。
険しい目付きで僕と跡部を見つめていた。

『二人共、いい加減にしろ。騒がしい。』

何時もの更に1.5倍位深く眉間の皺を滲ませながら手塚が呟いた。
溜息混じりの言葉に僕は居たたまれなく感じ、瞳を逸らした。
跡部も手塚の言葉を聞いて気が逸れたのか、直後に立ち上がった。

『興が冷めた。今日は手塚に免じて退散してやる・・・、じゃぁな。』

其の侭忍足を引き連れ、サッサと病室を出て行ってしまった。
お陰で僕一人、手塚と共に病室に残されしまった。


 急に人気が無くなった病室には静けさが戻っていた。
何時もなら手塚との間に或る沈黙は心地良い筈だった。
しかし今は逆に、気まずい雰囲気を作り出す要因にしかならなかった。
緊張し強張る僕。

何か言いたいのに。
伝えたいのに。

思いは言葉にはならず、喉の奥に消えていた。
しどろもどろしながら僕は暫しの間、縮こまっていた。
漸く僕の耳に入ってきた言葉は予想外の音だった。

『・・・・・・・・・・ぷっ。』

見返した手塚は、鼻に手を当て笑っていた。
如何反応して良いか迷いあぐね、ボケッと手塚を見返す僕に手塚は笑顔を返した。

『不二、何だその間抜けな表情は。』

不意打ちに僕の頬を摘み上げ、手塚は呟いた。

『・・・・・手塚、僕の事怒ってないの?』

上目遣いに手塚を見返し僕は呟いた。
僕の言葉を受け、暫し考え込む仕草をしてから手塚は振り返った。

『良くは解らんが、お前の不機嫌の理由は俺の為だったのだろう?』

あっけなくもあっさりと言い放たれ言葉に、僕は思わず笑い出した。

『・・・・・適わないなぁ、手塚には。』

見返した手塚も同じ様に笑っていた。

手塚は何時もこうだ。
言葉少なで語るのが嫌いなくせに変なトコで敏感なのだ。
他人から見たら些細な事。
しかしそんな事に気付いてくれる。
手塚はそう言うヒトだった。

『まぁ・・・良く或る話だね?』

窓から見える赤く染まり行く空を眺めながら、僕は笑顔で呟いた。






リクエストして書いてもらった小説です。
不二と手塚と跡部の微妙な三角関係!素敵です!!萌えです!!(≧∇≦)
そして何とも微妙な具合に忍足が!(笑)
ありがとうございます!きちんと忍足も入れてくださって、嬉しいです!
本当にありがとうございました♪



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