[ とっておきのXXX ]
「よしっ!」
いい具合に固まったチョコをラッピング用の箱に詰めて、箱と同系色のリボンで括る。
箱とリボンの間にメッセージカードを沿え、時計を見れば待ち合わせの時間まであと15分。
チョコを紙袋に詰め、いざ、出陣!
* * * * *
「遅くなりましたぁ〜!」
空がオレンジから紺へと変わり始めた頃、待ち合わせ場所へ息を切らせ走ってきた少女。名は赤月巴、テニスが大好きな中学2年生の女の子。
「いや、ええよ。そない待ってないさかい」
そう笑顔で答えたのは長身+細身+眼鏡の三拍子揃った美青年。名は忍足侑士、氷帝学園高等部テニス部(別名:ホスト部)所属。卒業後、プロへのオファーも来ている天才テニスプレイヤーである。
そんな二人が出会ったのは今から約一年前。昨年のジュニア選抜大会合宿で、合宿に参加していた男子の間で人気bPだった巴を忍足が見事口説き落とし、大会後から付き合い始めたのだ。そして、今日は付き合い始めて最初のバレンタイン―――だが、今年は平日に当たり、しかもどちらも部活が忙しく、部活終了後に待ち合わせとなった。
「手ぇ、冷たなってるで」
忍足はそう言って巴の手を取り、自分の両手で包み込み息を吹きかける。
「おっ忍足さん!?」
その突然の行動に更に頬を紅くした巴。忍足はそんな巴に笑みを返し、「あったかいとこ行こか」と言ってつかんでいた巴の右手を手を繋ぐ形に変え、自身のコートのポケットへと入れ歩き出す。
「えっ!? ちょっ! 忍足さん待って!」
"恋人とポケットの中で手を繋ぐ"というシチュエーションにドキドキしながら、巴は転ばないように忍足の横に並んで歩き出した。
「カラオケ……ですか?」
やってきたのはカラオケボックス。バレンタインということもあり地元の学生カップル達の列が出来ていた。
「なんかカップルが多いですね」
「そら、バレンタインやしな」
このボックスは商店街の中にあり、巴も学校帰りに朋香達と何度か来たことがあるが普段はここまで込むことはない。
列に並んで20分程経った頃、巴達の順番が回ってきた。そこでやっとカップルで賑わっていた理由が判明。バレンタイン限定でカップルコースメニューが実施されていたのだ。
「お待たせいたしました。カップルコースのご利用ですか?」
「ああ、そうや」
「ありがとうございます。ご利用時間は2時間となっております。お待ちのお客様が多数いらっしゃいますので延長はご利用出来ません―――」
店員の説明と名簿記入が終わると、別の店員の案内で部屋へと移動する。
両壁に二人掛けのイス、真ん中にテーブル、そして丸イスがテーブルの前に置いてある定員5名程の広さの部屋で、忍足と巴は向かい合う形で腰を下ろした。
「なぁ自分、なんでそっち座るん」
「え? だっていつもこうだし……」
巴の答えに忍足は溜め息を一つ零す。
「あんな、俺達は付き合うてるんやで。普通カップルでカラオケゆうたら隣同士に座るもんやろ」
忍足はそう言って、自分の右隣を叩いてこの場所に座るようにと合図をする。巴は「折角広く使えるのに……」と全く意味を理解していない様子で忍足の隣りへと移動した。
たった2時間しか歌えないということで巴はどんどん曲を入れていくが、忍足は歌う気配がない。
「忍足さん、折角なのに歌わないんですか?」
「気にせんでええよ。俺は自分の歌聞きたいねん」
そう笑顔で言われ巴は頬に紅味が差す。
「だだだめですよ! あっそうだ! 一人で歌わないんなら、一緒に歌いましょう!」
巴は歌本からデュエットのページを開きどれがいいか選曲し始めるが、忍足は巴から本を奪い閉じてしまう。そして、歌本も見ないでさっさと番号を入力してしまった。
「自分と歌うならこの曲がええんや。一緒に歌ってくれるか?」
「えっ、あっ、はい」
そのあっという間のことに驚き止まっていた巴だが、イントロが流れ慌ててマイクを持った。
忍足が選曲したのは、バレンタインのテーマソングとなっているあの曲。サビの部分は二人で歌い、Aメロ・Bメロを巴が歌う。
ちょっと照明を落とした空間に忍足と二人きり、そして、すぐ耳元で忍足のちょっと色っぽい歌声が聞こえてくるこの状況に極度に緊張した巴は、背筋を伸ばしマイクは両手で持って視線はずっと画面に向け、何とか歌い終えた時は手に汗をすごくかいていた。
「おっ忍足さん、歌上手いじゃないですか!」
巴は緊張していたのを何とか誤魔化そうと忍足に話しかける。そのバレバレな態度が可愛くて忍足の口元が少し緩んだが、巴は忍足の顔を見ていなかった為バレる事はなかった。
「そうか? おおきに」
忍足は何でもなかったようにそう言うと、さっきまで巴の肩を抱いていた腕を今度は腰に回し、巴の身体を一気に引き寄せる。
「!? わわわっ! おっ忍足さん! 急に何する……」
いきなりのことに驚き、顔を上げながら抗議をするが、自分を見つめていた忍足と目が合い、巴は何も言えなくなってしまった。忍足はふっと笑うと巴に問いかける。
「なぁ巴。俺、まだ自分からチョコもろてないんやけど」
「え? 何言ってるんですか。さっきあげたじゃないですか」
そう。順番を待っている間、忘れないうちに…と巴はチョコを渡していたのだ。巴がそう答えると忍足は「それのことやない」と言って、巴の耳元でこう答えた。
「さっきゆうたやん。"とっておきをあげる"て」
巴は、その問いが何のことを言っているのか一瞬分からなかったが、意味が分かると顔を真っ赤にし俯いてしまった。忍足はその様子に作戦成功まであと一歩だな…と思い、俯いてしまった巴の顔を上げ「貰ってええか?」と、恥ずかしさで涙目になっていた巴の目尻に口付けて問う。巴が反射的に目をぎゅっと閉じると、忍足は巴の返事も聞かず唇を巴のそれに乗せる。
「んっ……」
巴は返事のかわりに忍足の口付けを受け止めた。
短く、軽く唇に乗せただけの口付けだったが、巴には何時間もの長さのような気がして、終わったあとは力が急に抜け忍足に寄りかかる格好になった。
二人で迎える初めてのバレンタイン、
ドキドキしすぎて、リアルに記憶に残ったのはあの唇の感触だけで。
チョコよりも甘く、とろけそうな出来事―――
-fin-
お世話になっている和さんより、期間限定フリーということで頂きました!
忍足&巴の甘々バレンタインですvv
さすが忍足、大人で余裕ですねvそして乙女な巴が可愛いですv(*^^*)
本当、甘くてとろけちゃいそうです(笑)!
和さん、素敵SSありがとうございました!!
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