<想いの思い出>


私はクラスの代表として、卒業式の後片づけを手伝っていた。
さっきまでここには、旅立つ喜びや去り行く寂しさがあふれていた。
そんな中、先輩はどんな気持ちでいたのだろう。
(もう、会えないんだ・・・)
そう思うと涙がこみ上げてきて、それをごまかすように窓の外を見る。
昨日までのどんよりとした雲はどこへ行ったのだろう。
今日は雲ひとつない青空が広がっていた。

そのとき、先輩が1人で部室の方へゆっくり歩いていくのが見えた。

心の中で何かが弾けたような気がする。
次の瞬間、私は押されるように走り出した。
「ちょっとアンタ!サボる気!?」
友達の声がしたけれど、私の足は止まらなかった。

「はぁ、はぁ・・・はぁ・・・」
部活であれだけ走っているのに、今日はなぜか息が切れて苦しい。
膝に手をついたまま呼吸を整える。

「あれ・・・赤月?」

私の名前を呼ぶ聞き覚えのある声。
慌てて顔をあげると、不思議そうな顔を浮かべた先輩がいた。
「どうしてここにいるの?」
「あの、先輩が部室の方へ行くのを見かけて・・・」
「なんだ。ここに来ることは誰にも言ってなかったのに、キミがいて驚いたよ。」
そういうと先輩はいつもの優しい笑顔に戻った。
「先輩はどうして部室に?」
「ボクはね、ここに"さよなら"を言いに来たんだ。」
「"さよなら"ですか?」
「そう。ここは思い出がたくさんある場所だから。」
「だから1人で・・・なのに私!邪魔しちゃって、すみませんでした!」
「別にかまわないよ。ここでの最後の思い出だ。」
先輩はそう言って、青く澄んだ空を見上げる。

(言わなくちゃ・・・)
その時、ふと思い出す。
私がここに来た理由。

いつからだろう・・・気がついた時には好きになっていた。
先輩としてもテニスプレイヤーとしても、そして1人の男性としても。
けれど私は想いを伝えようとはしなかった。
会えるだけでよかったから。
でも、今日は卒業式。
明日から先輩に会えなくなる。
そんなのイヤだ。
これからも一緒にいたい!

「どうしたの?気分でも悪い?」
俯いたままの私を気遣う先輩の声に、はっとする。
「い、いえ・・違うんです。あ、あの・・・」
気持ちの方が強すぎて、なかなか言葉にできない。
もどかしさでいっぱいになる。
「わ、私・・・言いたい・・こと・・・がっ」
「・・・何かな?」
「せん・・先輩・・・」
最後のひとことを言う前に大きく深呼吸をした。
そして先輩の顔をまっすぐ見る。
「わ、私・・・先輩が!」

「あ〜!こんなところにいたの?探したわよ〜。」
胸にコサージュをつけた3年生がやってきて先輩に声をかけた。
「ごめん、ごめん。で、ボクに何か用?」
「クラスで写真撮ろうって盛り上がってて。だから教室に戻ってくれる?」
「わかった。できるだけ早く行くよ。」
「じゃあ、あとでね。」
そういうと、先輩と同じクラスの人は行ってしまった。

先輩が私の方にまっすぐに向き直る。
「思わぬ邪魔が入っちゃったけど・・・言いたいことって?」
「え・・あ・・・そ、その・・・ご卒業、おめでとうございます。」
「ありがとう。」
「それから、1年間ありがとうございました!」
「ボクも楽しかった。じゃあ、そろそろ教室に戻るよ。これからもがんばって。」
「はい!」
先輩は軽く手を振ると、一度も振り返ることなくその場をあとにした。
私は先輩が見えなくなるまでそこから動かなかった。
見えなくなっても、しばらくの間そこから動けなかった。

「いっけない!卒業式の後片付け、放ってきちゃったよ〜。」
そしてまた私は走り出す。
"想い出"を胸に、新しい思い出のために。





お世話になっているにょろさんより頂きました!「R&D」初SSだそうです。
以下、にょろさんのコメントを引用させていただきます。

『内容は主人公(赤月)ちゃんの片思いです。 そして失恋です。←おい
相手は“先輩”というふうに書いてますが、文面やセリフから誰のことかわかっていただけるのではないかと思っています。
『R&D』(Jr選抜後のエンディング)の設定とは違います。
また、主人公ちゃんの気持ちに気づいていない設定にしました。
(“彼”の場合、気づいてても気づかないフリをするかもですね)』


とのことです。

甘々も好きですが、こういうのも甘酸っぱい青春って感じでいいですねv
最後まで名前の出てこなかった「先輩」、私も大好きなあの人かなぁと思っていたのですが、どうやらそのよう で嬉しかったです(笑)。本当、彼なら気付いていても気付かないフリをしそうですよね。

にょろさん、素敵SSありがとうございました!!


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