『みつけたよ』



 さっきまで眩しいほどの太陽(ひかり)の破片(かけら)たちが降り注いでいた空は、今はグレーのコートを羽織りポツリポツリと雫を降らし始める。
 こんな日は誰だって歩いて帰るのは遠慮するだろう。時刻表通りに来たバスには沢山の人が列を成していた。
「ふぅ。今日は歩いて帰ろうかな」
 いつも見るのは走るバスから見える街並と晴れの日の街並だけど、神様の気まぐれで色を変えた景色(彼ら)を見ると雨の日も悪くないなと思った。

 雫のベールを被った街路樹
 不思議な音を奏でる霞んだ青い屋根
 まあるい模様を作っていく道路(みち)

 どれも今この瞬間(とき)にしか描かれない特別な景色(いろ)。
「今度、雨の日の景色を撮ってみようかな?」
 晴れの日か雨上がりにシャッターを切ることが多い僕はふと思う。とても不思議なキモチ。
 昨日出した写真を受け取る為いつもの写真館へ向かう。でも今日はこの景色達とのおしゃべりを楽しみたいなと思い、少し遠回りして歩いた。
 
 いつもと同じ街並だけど
 いつもより一つ先の角を曲がるだけで
 少し違って見えた

「っと」
 角から突然飛び出してきたずぶ濡れの少女とぶつかり、少女が倒れるのをとっさに自分の方へ引き寄せ防ぐ。
 少し大きめの深いグリーンの瞳。
 肩まで伸びた漆黒の髪は雨に打たれ、その真珠の様な肌に張り付いていた。
「すみません!」
 彼女はそれだけ言うと走って行ってしまった。
「傘…忘れたのかな?」
 彼女が飛び出してきた道を暫く行くと電柱の下に開かれたまま置かれた赤い傘が見えた。
「これは…」
 その傘の中にはダンボールの中濡れた身体を小さく丸めて眠る白い子猫。
「可哀相に…けど…」
 この子猫を守る様に置かれた赤い傘が気に掛かる。
「もしかして…さっきのあの子が?」
 何故そう思ったのか分からない。けど、傘を持たず走ってきた彼女、そしてその彼女が来た方向にある赤い傘…偶然にしては出来過ぎてる。
 とにかくこのまま子猫をほおっておく訳にもいかず、僕は連れて帰ることにした。勿論赤い傘も一緒に。

 それが彼女との最初の出会いだった。
 あれから二つの季節が過ぎ、卒業式を間近に控えた日曜日。今日はタカさんの家でテニス部のお別れ会が開かれ、その帰りに彼女と再会した。
「どったの?不二」
 突然立ち止まった僕に問いかける英二。
「英二あの子…」
 僕達がいる歩道橋のすぐ側のバス停にいる彼女を指差しすと英二は彼女の名前を呼んだ。
「ん?あっ!水無月じゃん!おーい、水無月〜♪」
「え?英二知ってるの?」
「うん。だって俺の従妹だもん。つーかにゃんで不二が水無月のこと知ってるのかにゃ?」
「英二の従妹?」

 こんな近くにいたなんて…
 君を探して彷徨ってた僕の心が今、踊りだしてる

 君をもぅ離したくない
 君と再び出逢えたこの瞬間(とき)が止まればいいと強く想う

「こんにちわ。僕のこと覚えてますか?」

*****
 あれから季節が一巡りし、僕は高校生となったけど君への想いはあの頃のまま。
「水無月」
 歩道橋の上から君を見つけ、名前を呼ぶと君はいつもの笑顔で振り向いた。

「今帰り?なら一緒に帰ろう」
 二人並んで歩く帰り道
 くだらない会話も君となら『特別』な会話になる

「例えば10年経って、街で偶然出会っても君は変わらないだろうね」
 そういうと君は一瞬悲しそうな顔を見せそして、真面目な顔で「周助さんに見合うよう頑張るからっ!」っていうから、僕は思わず吹き出してしまったけど、僕の為にいつも一生懸命な君を見ると心が少しだけ熱くなる。

『イマ グウゼン ダレト イッショニイル デショウカ?』
 神様の気まぐれで偶然出会った君と
 今こうして、僕の誕生日に偶然会ったのは
 やっぱり神様の気まぐれなのかな?

-fin-



和さんより、不二のバースデー記念ドリーム小説ということで、頂きました!
不二!!不二に想われているなんて、幸せすぎです!!(≧∇≦)
菊丸の従妹というのも、かなりおいしい設定で・・・(笑)!
いやぁ、何だか若いですね!不二!!爽やかなイメージで素敵ですvv

和さん、本当にありがとうございました♪


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