俺のモノになれ
正直、ここまで手がかかるとは思わなかった。
ふぅ、とため息を吐き空を見上げた。
広がる空は雲ひとつない青空。
いつもならば、乗馬でもしながら女性を口説き落とす気にさせるような色なのだが。
やっぱりため息が出てきてしまう。
それもこれも、かつて女王候補であり現在は女王補佐官であるロザリア・カタルへナの所為だ。
女王候補のときは、我侭・真面目少女・・・としか考えていなかったが、最近補佐官になってからは気品が漂うようになってきた。
その少女の成長に、俺は心を奪われた。
・・・・・いや、もう少女といってはいけない。一個人の女性だ。
穢れなき魂を持つ、純粋な女性。
・・・・・俺は、その女性を手に入れたいと思う。手に入れようと思う。
いや、手に入れたい。
手に入れるためなら、俺はなんでもやってみせよう。
たとえ、悪魔に魂を売らなくてはいけないとしても。
俺は、女王補佐官の部屋へと足早に行った。
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コンコン。
木の柔らかい音が来客の合図をだす。
ロザリアはペンをピタッととめた。
誰かしら。
素直にそう思い、そちらの方に目を向ける。
「・・・・どちら様ですか?」
形のよい唇が、美しい声と共に動いた。
しかし、声が返ってこない。
気のせいだと思い、ロザリアは書類の続きを書こうとペンを走らせようとした。
コンコン。
また聞こえた、来客合図の音。
ロザリアは眉間に少ししわを寄せて、もう一度声帯を震わせた。
「・・誰なのですか?」
ドアごしにいる人は、どうやら自分にドアを開けてほしいらしい。
まあ、時間もあるしいいわ・・・と思い、ロザリアはすっと背を伸ばし優雅に立った。
カツカツと音をだして歩いていく。
その間に、ロザリアは誰かを考えていた。
誰かしら?
またアンジェが遊びに来たのかしら。
それとも、仕事の手続きでの使者?
誰かのいたずらかもしれない。
ああ、メイドの方かもしれないわ。
ロザリアはいろいろ考え、口元を軽く上げ微笑した。
自分は、こういう考えるゲームが結構好きだ。
相手がなにか、相手がどう出るか・・・チェスなどもその類に入る。
自分の考え付かないことを遣ってくれる相手だと、とてもわくわくする。
今回も、そういうことを冗談半分に期待してドアを開けた。
「どちらさ・・・・・まっ!?!?」
いきなり体を抱きすくめられて、ロザリアは小さい悲鳴を上げそうになった。
いきなり抱きすくめられたので誰が誰だかわからなく、顔も見えない。
誰なの?と思っている間に、耳に聞きなれた声が入ってきた。
「女王補佐官殿。・・・・・こんにちは。」
この狼を彷彿させるような声。
野生の本能をそのままだしたような。
「・・・・オ、オスカー様・・・?一体どのようなご用件で・・・」
「ここに来たのですか?」とロザリアが言う前に、オスカーは口を開いた。
「会いに来ただけだ。・・・それじゃあ、いけないか?」
抱きしめられ、そのまま耳元で話されているのでロザリアは背筋がゾクゾクとした。
オスカーの声は、いつもの声ではなく低いような声。
いつもの甘い声ではなく、素の男の声にロザリアは頭がグラッとしていた。
感覚があまりにも刺激過ぎていて。
くらくらしている頭で、ロザリアは必死でオスカーの返答に答えた。
「いえ、別に・・・って、会いに来た・・?」
「そう。」
オスカーは一度ロザリアを自分の胸から離して、顔がお互い見えるようになった。
先ほどは耳だけの刺激だったが、今は視覚も触覚も敏感になっている。
さっきの声のまま、オスカーは話を続ける。
「・・・・女王補佐官殿。いや、ロザリア。」
不意に見せる真面目な顔に、ドキッとした。
オスカーが女に真面目な顔をするのは、これが初めてかもしれない。
スッと整った鼻、燃える様な赤い髪の毛。
そしてその情熱に一時の水を差すような、アイスブルーの瞳。
ロザリアは改めて炎の守護聖の端整さに見入った。
そして次の瞬間、オスカーはロザリアの心を一瞬でかき乱すような言葉を言った。
「俺のモノに・・・・なってくれ。」
「・・・・・えっ!?」
ロザリアは、耳を疑った。
あのオスカーが自分にその冷たい瞳でそんな言葉を言うとは思ってもいなかったからだ。
最近そんなそぶりも見せていないし、あってもいなかったと思う。
それがどういう心境でこんな状態になったのか。
心境の変化?
いえ、それともただの遊び?
ロザリアはわけが分からない顔をした。
「何故自分が・・・?」と思うと、どうしても後者で思っていた事が現実になる可能性が高い。
心がそれで傷つくのは厭だ。
私は、冗談として受け止めよう。
「・・・・・ええ、いいですよ?」
くすくす笑いながら、オスカーに言った。
オスカーは一瞬びっくりした顔を見せたが、すぐに先ほどの真面目な顔に戻した。
「おれは、本気だ。
本気で、君を・・・・・愛している。
好きなんだ。」
この人は本気?
いつも本気でない貴方が、本気を出したの?
「・・・・何を言っているのですか?私には意味が・・」
「分からないなら、教えてやるぜ。」
不敵な笑みを見せた後、近くにあったソファにロザリアはドスッと押さえ込まれた。
上に、オスカーの瞳が見える。
・・・・怖い。
少し怖くなり、オスカーの顔が近づいてきたときびくっと震えてしまった。
怖い怖い怖い。
守護聖としてでなく、1人の男として、怖いと思った。
男は本気を出すとこんなにも怖いのか。
次にどんな事を遣らされるのかと思うと、ガタガタと震えてきた。
何故?私ばかり。
悪い目にあって。怖さを教えられて。
オスカーの顔が近づいてきたとき、ビクッと震えた。
「・・・・・やっ・・・!!」
小さくもらしたその声で、オスカーの顔がピタッと止まった。
とてもびっくりした様な顔。
その瞳はロザリアから少しそらされ、苦しげになる。
「・・・・頼むから、俺を受け入れてくれ・・・。」
悲しげな声が、ロザリアの耳に届いた。
それが聞こえた瞬間、ロザリアは怖さが取り除かれた。
不思議な気分になった。
激しいばかりの気持ちを、もしかしてこの人はずっと抑えていたのではないか。
悲しくても、ずっと笑顔を作りいつもどおり振舞っていたのではないか。
「・・・・オスカー様・・・・。」
言葉に詰まった。
これ以上、何を言えばいいのか。
「・・・・・大丈夫。大丈夫ですから・・・。」
小さな子供をあやすように、ロザリアはオスカーのほおを整った指でそっと触れた。
「1人じゃないです・・・。
人間は、1人じゃ生きていけないんです・・・。
たくさんの力で、やっと1人が支えられる・・・そんな力・・・。
私もいろいろな人に支えられているんです。
オスカー様も支えられていると思います。そして、誰かを支えていると・・・。
本気で失いたくない相手を見つけたなら、その人に精一杯愛情を注いでいれば、きっと失わないと思います・・。
だから、大丈夫です・・・。」
オスカーはロザリアの方を向いて、優しい微笑を向けた。
そして、今度はやわらかくそっと、抱きしめた。
「・・・・今度は・・・真面目にいうが・・・いいかな・・・。」
「・・・・はい・・・。」
「・・・・・・愛してる。愛してる。ずっと、愛してる。
ロザリアの人生を、俺にくれ・・。」
その後、笑顔で補佐官室をでていく二人を見かけた人がいたらしい。
二人の左手薬指には、まばゆいばかりの銀色の指輪がついて――――。
<FIN>
オスカー&ロザリアで、ついに本気モードに入ったオスカーをリクエストしました♪
するとこんなに素敵な小説がっ!!!もう大感激です!オスロザ、いいです!!
さすがオスカー、ドキドキものですね♪もっと突っ走っても全然オッケーです(笑)!!
ギリギリ同盟、バンザイ!!(←意味不明)
本当にマグロさんの小説は素敵だなぁ・・・(しみじみ)。
ありがとうございました(^_^)
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