『思いの距離』



彼は当たり前の様に其処に居た。

前からずっと居続けた様に。

穏やかな月の如き微笑を湛えて。


赤月帝国の解放戦争から早数年。

帝国中を巻き込んだ大規模な戦争は、皇帝と魔女ウィンディを倒した事により帝国制を打 倒、漸く終結した。

大規模な戦争の割りに終結はあっという間だった。

大帝国の末路は僅か数年の戦いで決着したのだ。

 この解放戦争の主役は彼だった。

彼は帝国大将軍テオ・マクドールの息子でありながら腐敗した治世を行う帝国に弓引いた のだ。

反乱軍と呼ばれる帝国圧制からの解放を目指す解放軍のリーダーとして表立ち、

27つの真の紋章の一つ、魂食いの紋章【ソウル・イーター】をその右手に宿して。

紋章持ちの彼の周囲には、宿星と呼ばれる運命を共にする仲間が集い帝国と戦い続けた。

その結果、僅か数年で帝国打倒したのだ。

 しかし、この戦争において彼の支払った犠牲は大きかった。

親友そして、兄のように慕っていた人。

近しい人を次々に無くしていった。

そんな状態を彼は受け入れられなかったのだろうか?

ある日突然姿を消した。

何も言わず初めから自分など其処に存在して居なかったかのように何も残さずに。

勿論、私達仲間は彼を探し続けた。

しかし、彼の消息はおろか手懸かりすら全く見出せなかったのだ。

 そんな風に雲隠れし続けていた彼が今目の前に居る。

あの頃から変らぬ面影。

柔らかい物腰と口調。

私が思い続けていた頃から寸分変らぬ姿で目の前に居た。

 私の視線に気が付いたのだろうか。

彼は不意に此方に視線を向けた。

刺すような痛みが胸に走った。

ゆっくりと合わされる視線が痛かった。

『久しぶり、元気だったかい?』

久々に聞いた彼の声は聞き慣れた声のように懐かしく、そして愛しかった。

『心配しましたよ、本当に』

『すまない・・・・・独りになって考えたかったんだ。』

言葉少なに選ばれた彼の言葉が沈痛な気持ちを語っていた。

 彼は他者の介入を拒んでいた。

切なかった。

苦しかった。

【どんなに思っても、私の思いでは彼の傷は癒せない―――。】

その事実を思い知らされた様で哀しかった。

 否、初めから解っていた。

私では彼を満たせないと。

癒せないと。

其れでも、其れでも只傍に居たかった。

彼を感じれる距離に居たかった。

だから、私は思いを秘めたままで居る。

決して自分の思いは伝えない。

今の距離だけで十分だから。

 でもせめて、せめて何も出来ないのならば、願う事は許されるだろうか?

私には彼を癒す事は出来ないけど、彼に優しい時間が過ぎ行く様に思う事は許されるだろ うか?

満たせない思いが浄化される其の日を―――。






カスミ〜〜〜!!健気です!!かわいいです!!
坊っちゃんとカスミの関係は、まさにこんなイメージですね(^_^)
そして坊っちゃん!!台詞は少ないですが、存在感がありますね〜♪
幻水2でのイベントといい、この二人の関係はちょっと切ない系が似合うかも。
素敵小説、ありがとうございました〜〜vvvv


2003/6/16 イメージイラスト描いてみました。→こちらからどうぞ。





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