今日は一日とても暖かく、過ごしやすかった。
長かった冬も終わりかけているのだろう。
まさにスカイブルーの空は、一点の曇りも無い。
風は殆どなく、芝生を歩く鳥達もなんとなく嬉しそうだ。
そして、今こうして、大好きな彼と並んで過ごすあたしも、しあわせなのだ。
お日様は全てを照らし、暖かな一日としあわせをくれる。
ぽかぽか。
彼は隣で読書中。あたしもとりあえず本を手にしているけれど正直頭には入ってない。
今、この状態があまりに心地よくて、あたしはそのまま瞳を閉じた。


ねむりひめ


『巴、起きて』
うう、嫌だ。だって眠いもん。
『嫌じゃないでしょ、風邪をひいてしまうよ』
ひかないです。あたし馬鹿だからひかないって、リョーマ君が言ってたし。
『屁理屈ばかり言わないの。もう日が暮れるよ?』
日暮れ…日暮れ……日暮れ!!
『日暮れ!もう夕方ですか?!』
慌てて目を覚ますと、幸村さんはちょっと笑って、言った。
『もうそろそろ四時になるよ』
『四時!』
『そう、四時。巴、良く眠っていたね』
やっぱり笑顔のまま、幸村さんは言ったけど、あたしはその言葉に思い切りへこんだ。

今日は大好きな幸村さんと久しぶりのデートだった。
神奈川と東京、遠距離恋愛という程の距離ではないけれど、中距離恋愛位にはなるんじゃないかな?
電車を何度か乗り継ぎしなきゃいけない距離。
毎日会うとか、毎週会うとか、そういうのが出来ない距離。
電話やメールは毎日だけど、やっぱり会えるのは特別だから、あたしは今日をすごく楽しみにしてた。
なのに……。

『寝ちゃうなんて、最悪だー!』
ぽかぽか陽気のばか!お日様の意地悪!
これじゃ幸村さん退屈させちゃったよ、きっと。
あたしは自己嫌悪から、ついしゃがみこむ。
そんなあたしを、幸村さんはそっと立たせてくれて、言った。
『どうして最悪なの?俺はすごく楽しかったけどな』
『嘘。だってあたし二時間位寝てましたよ?』
『ああ、そうだっけ?楽しいかったからもっと短く感じたよ』
『気を使わなくていいですよ』
『そんなつもりはないよ。俺は案外素直なんだ』
『……信じられないもん』
幸村さんは、優しいから、きっとあたしに気を使って言ってるんだと思う。
っていうか、それ以外考えられない。
ぷう、と頬を膨らませて拗ねていると、だんだん近づいてくる幸村さんの顔。
え?と思っているうちに、頬に温かな感触が降ってきた。
こ、これって。
『ゆ、幸村さん!い、今キ、キスしましたね!』
ここ、公園なんですけど!周りに人いっぱいですけど!
っていうか!初めてなんですけど!!
あたしはあわあわするけど、目の前の彼は泰然としたもので、やっぱりにこにこしてる。
『ああ、ごめん。膨れてるの可愛かったからね、つい』
『ついって!』
『ああ、嫌だった?でも寝ている間も何度もしちゃったよ。ごめんね?』
にっこり、にっこり。
これじゃ責めてるあたしが、間違ってるみたいな気になる。
優しい幸村さんって、前言撤回!
この人、絶対に悪いなんて思ってないよー!

『……そんなに嫌だった?』
なんて言いながら、顔を覗き込んでくるけど、嫌なはずない。
好きな人からされたんだもん。ただ、恥ずかしいだけだ。
多分真っ赤になっているだろうあたしの顔がそれを証明しちゃってる。
でも口に出して言うのは恥ずかしすぎるから、あたしはぷるぷると首を振った。
『そう、良かった!眠り姫の機嫌が直って』
『眠り姫って、あたしの事ですか?』
『他に誰が居るの?』
幸村さんは、ちょっと首を傾げて、笑うけど。
『幸村さんの方が、姫って感じですよ』
うん、ぴったり。
思い出すのは辛いけど、入院中に何度か見た幸村さんの寝顔はまさに天使っていうか
なんていうか。カーテンの隙間から射す柔らかな光に彩られた彼は、あんまり綺麗で、
不謹慎かと思いつつ何度も見蕩れたものだ。
ついうっとりと思い出に浸る。
すると幸村さんは、夕日が眩しいのか、少し目を細めて、言った。

『俺が入院しているとき、巴は何度もお見舞いに来てくれたね』
『はい!』
部外者のあたしだったけど、初めて会った時からどうしても気になっちゃって。
聞き上手の幸村さんと話すのが楽しかったのもあり、ちょっとしつこい位に病院に通ってた。
その甲斐あってか?こうしてお付き合い出来る様な関係になった訳だけど、当時の事を思い出すと、
ちっともお見舞いになってないような気がする。
『巴はあの頃も良く眠ってた』
そうなんだ。
お見舞いに行くと、大抵幸村さんが眠っていて、それを見てるあたしも眠っちゃって。
そして気がつくともう面会時間が終わりかけ……なんて事が何度もあった。
恥ずかしい。
あたしはすっかり恐縮しちゃって、ああ、やっぱりあたしは駄目かも、なんて思うけど。
幸村さんは、うっとりと語り続けてる。
うっとりっていうか、なんていうか。すっごい笑顔で!
『巴の寝顔が見たくて、わざと眠ったふりをしていたんだよね!』
『ええ?!』
『無防備で可愛いから、その時何度もキスしちゃった!』
『えええ!!』
『ごめんね?』
うわ!また絶対悪いと思ってない『ごめんね』きた!
でも、あたしだって嫌じゃないから、いいんだけどさ。でもちょっと納得いかないっていうか。
複雑だ。
『それにね』
それに?
この上、まだ自分の恥ずかしい話が出てくるのかと、思わず身構える。
顔はありえないレベルの赤さになってる筈だし、手は汗ばむ。
動悸も激しくなっちゃって、これ以上こんな話を聞き続けたら恥ずかし死にしちゃうよ……!
『巴が目を覚ますまで見てるのが楽しみで』
恥ずかしくて、幸村さんを見ることが出来ず、あたしは目をぎゅっと閉じた。
その時の事を再現するかの用に、幸村さんの手がそっとあたしを撫でる。
髪を撫でる手をゆっくりと頬に滑らせ、頬、瞼と。
そして、びっくりする位温かな両手で、あたしの顔を包んで。
そのまま、唇を重ねた。
『……あの時から、巴は俺の眠り姫だって、ずっと思ってた』
唇が、まだ触れそうな位置で、そんな風に囁かれて。
あたしはもういっぱいいっぱいだった。
『うう』
『恥ずかしがってる顔も可愛いけど、これ以上目を瞑ってるとまたキスするよ?』
?!!なんと!
これ以上恥ずかしい目に遭うのは、無理!とようやく目を開いて、幸村さんを見遣ると、
やっぱり彼は満面の笑みでいた。
そんな幸村さんを見て、あたしはもう観念っていうか、完敗。
やっぱり神の子には敵わないよ!

でもでも、このままやられっぱなしも性に合わない。
だから、あたしは。
余裕な笑顔の幸村さんの肩に腕を回して、そのままギュウッと抱きつき。
耳元で、そっと。それこそ、唇が触れちゃう位に近くで、囁いた。
『大好きですよ!王子様』
その時の、幸村さんの表情はあたしからは見えなかったけど。
抱きついた首筋が、赤くなっていたのは、きっと、気のせいじゃないよね?




「はと小屋」のはとこさんより、サイト開設5周年のお祝いで頂きました!
何と、私の描く幸村から妄想して作ってくださったそうです。
もう嬉し過ぎです!ありがたき幸せ!!(T△T)

幸村が素敵すぎてドキドキです!さすが神の子!!(≧∇≦)
私まで恥ずかしくて死にそうになっちゃいましたv
でも最後の巴の反撃に赤くなっていた幸村に萌え!神の子といっても人の子ですね(*^^*)

はとこさん、素敵なSSをありがとうございました!!


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