むかーし昔の歌だけど
『会えない時間が愛を育てる』とかいうのがあったみたい。
それって、絶対ウソ!
だって、本当だったら遠恋カップルの破局率は0%のハズだし?
あたしが、たった一ヶ月会えないからって、
寂しくて死にそうになってる訳ないもん。


愛してるって気持ちは、まだ分かんないけど。
でも『好き』な気持ちは充分知ってる。
それは『会えない時間』では育たなくて。
『寂しい気持ち』増幅剤なんじゃないかと思う。



一緒



『長いなぁ…』
あたしはカレンダーを見つめて、今日何度目になるか分からない溜息をついた。
跡部さんと付き合うようになってから、今まで。
こんなに離れていたのは初めてな気がする。

跡部さんは公私共に忙しい人だ。
それはあたしも充分承知してる。
全ての空き時間があたしに使えないって事も、わかってるよ。
週一で会えていたのが、跡部さんの思いやりだって事も分かってる。

今年の夏休み、跡部さんはご両親と共にドイツに行ってしまった。
あたしには分からないけど、お家のお付き合いで色々あるみたい。
…仕方ない事だもんね!
出発の前日、
『とっても寂しいけど、我慢します。いってらっしゃい!』
でも、お土産は沢山買ってきて下さいね?
って言ったあたしに
『勿論だ。…俺様の事忘れるんじゃねーぞ?あーん。』って
頭を撫でてくれたっけ?


あー、それがもう夢であった出来事のように遠い。
何をしていても跡部さんを思い出しちゃって、悲しい。
ちゃんとお手紙はくれるけど、それでも。
声が聞きたいし、手を繋ぎたい。
一緒にテニスだってしたい。
『あー!もうっ!』
そしてまたカレンダーを見つめて、ちっとも減っていない日数に苛々した。


跡部さんがいないと外に出るのも嫌になってしまって
プチ引き篭もりのあたしを、朋ちゃんと那美ちゃんが誘ってくれた。
『そんなにダラダラしてると、振られるわよ!』
『プールに行ったら、きっと楽しいよ!もえりんw』
うん。
そうだよね!たまには外に行って運動しないと。
『うん、行く!』
そう決まったら、ちょっと気持ちが浮上してきた。


まず今日皆で水着を買いに行って、明日プールに行くことにした。
…やっぱり買い物は楽しい!
みんなで何着も試着して、すっごい悩んで。
最終的にはものすごーく気に入る水着を買えちゃった。
あたしが買ったのは黒で、フリルが付いてるホルターネックのビキニ。
『ちょっと大人っぽすぎない?!』って気になったけど、朋ちゃんが
『あんたの彼氏にはこれくらいが調度いいわよ!』とお勧めしてくれたので。
(朋ちゃんの情報収集力は、乾先輩より柳さんより観月さんよりすごいんじゃないかと、
あたしはひそかに思ってる。方向性は違うけど。)


うちに帰ってきて奈々子さんやおじさんに水着を見せたら好評だったのも嬉しかった!
リョーマくんだけ『似合わない、そんなの着ていくな。いっそ青学の指定水着で行け』を連発してたけど。
『スク水なんて嫌だ!』とあたしが言ったら、おじさんは『いや、それもいいなー』といってリョーマ君に何かぶつけられていた。
全く、リョーマ君て訳わかんないよ!許してあげるけど。


買い物したり、準備したりしていたら、寂しい気持ちが和らいだ。
跡部さんがいないのはやっぱり寂しいけど、明日は楽しもう!
と、誘ってくれた友達に感謝してその日は眠りについた。



***



『うわぁ…!広いんだねぇ。』
朋ちゃんたちに連れて行ってもらったプールは、かなり大きな施設だった。
流れるプールがあったり、大きな滑り台があったり。
天気も最高だし、あたしはうきうきしてきた。


『どれから行こうか?どれからにしようか!』
『巴、あんた挙動不審。』
『よかったー、もえりん楽しそうでw』
本当に、どれから入ればいいのか迷っちゃう。うろうろしちゃう。
ついに朋ちゃんに呆れられ、
『あたし達、場所とってくるから。あんたはそこで迷ってなさい!』
って置いて行かれてしまった。


『滑り台…いや!ここは定番に普通のプールか。いや、敢えて子供用とか?』
うーん、と迷っているあたしの肩に、ポンと手が置かれる。
ん?
振り返ってみると、そこには知らない男の人達が。
『ねぇ、君。俺たちと一緒に泳がない?』
高校生くらいかな?
なんにしても、朋ちゃんたちと来ているので、お断りする。
『あ、友達と来てるので。ごめんなさい。』
『友達ってあの、ポニーテールの子達でしょ?みんな一緒に遊ぼうよ。』
朋ちゃん達を慌てて探すと、数人の男の人に声をかけられてる。
もう!
断ってるのに分からないなんて。嫌だなぁ。
『結構です。』
肩に乗せられた手を強めに振り払う。
すると見知らぬ男はにやっと笑って、私の腕を強く掴んだ。
『気が強い子って、好みなんだよね。』


睨んで、逃げようとするけど、男の手は今度は簡単には外れなかった。
ここは必殺踵落としで逃げるしかない!
と思ったけど、今日は水着だし…流石にどうかなぁ。
躊躇していると、男は肯定として受け取ったのか乱暴にあたしをひっぱる。
『やめて下さいって言ってるじゃないですか?!』
『いいじゃん。いい加減諦めなよ。』
嫌だってば!
この人馬鹿かなぁ。
もう一度振り払おうと頑張っていると


『そいつの手を離せ。』


背後から、聞きなれた、あたしの大好きな声。



『あ、跡部さん!』
あああ跡部さんだー!!どうして、ここにいるのかな。
『すまないが、こいつは俺の女なんでな。』
男の手を簡単に捻って、外してくれる。
ナンパ男は、ちょっとこっちを睨んだけど『チッ、男連れかよ…』といいながら小走りにどこかに消えた。



『あ、ありがとうゴザイマス。』
とりあえず、お礼言わなくちゃ。
『で、でもどうして日本にいるんですか?』
跡部さんは、何か言おうとして口を開きかけたけど。
溜息をついて、あたしの頭をくしゃっと撫でて。
『あんまり心配させるな。』
そのまま、抱き寄せられた。
『…ハイ。』
やっぱり、大好き。


『でも、でも!どうしてここに?っていうか日本に?!』
『お前なぁ。お前にはムードとか、そういうものはないのか?あーん?』
後で話すから、少し黙って抱かれてろ、と。
跡部さんは言った。
ちょっと恥ずかしい。だって今水着だし…。
…ん?
あ!
『あ、跡部さん!朋ちゃんと那美ちゃんが危ないんですよ!』
さっき男に囲まれてたもん!二人とも可愛いし…。
『ああ、あれは大丈…』
『大丈夫じゃないですよ!大変ですよ!』
跡部さんが全部言い終わる前に、あたしは遮った。
だって、大事な友達だもん!
『那美ちゃーん!朋ちゃーん!ど、どこにいるのー!!』
『抱かれてろって言っただろうが。』
仕方ねぇな…と跡部さんは呟き『おい、樺地。』と後ろを振り返った。
『ウス』
あ、樺地さん?何で樺地さんもいるのかなぁ?
『巴の友人達は無事だな?』
『ウス』
え、ええ?
色々あって混乱気味のあたしに、跡部さんが言った。
『仕方ねぇから先に説明してやる。』



***



跡部さんによると、今日は氷帝メンバーみんなでプールに来ていたそうで。
あたし達が来ているのを見て、跡部さんに連絡してくれたみたい。
すごい偶然。
那美ちゃんたちは、日吉さんたちが助けてくれたそうで…。
日吉さんって、何か強そうだもんね。うん。
今は氷帝のみなさんと一緒にいるみたい。なら安心かー。


『じゃ、今度こそ逃げるなよ?』
跡部さんがあたしを抱きしめる力を強めたけど、まだ疑問が。
『でも、なんで跡部さんが帰ってきてるのかわかりません!』
『お前は…ったく。』


『一時帰国するって急に決まったんだよ。帰国前に電話したけど、お前、急に切ったろうが。
大方国際電話が分からなかったからだと思ったが…。』
急に帰ってきて驚かせるのもいいかと、帰ってきてみたら。
『お前は楽しくプールに来てるしな。』
ああ、そういえば変な外国語の電話を切ったっけ?
『あの電話、跡部さんだったんですねー!ビックリ。』
『今言いたいのはそんな事じゃねぇだろ!』



『巴』
あたしの名前を呼んで、じっと見つめられる。
跡部さんに見つめられるのにあたしは弱い。
『会いたかった。お前は?』
そんなの、決まってる。
『会いたかったです。』
『じゃあ、今度こそじっとしてろ。』
また、抱きしめられて。
あたしは、じっと抱きしめられてた。
ここがプールだとか、人がたくさんいるとか。
色々気になることはあったけど。
『大好きです…』



会えない時間は、やっぱり『寂しい気持ち』増幅剤だと思うけど。
それには副作用があるみたい。
『会えたときに、いつもよりしあわせになれちゃう』っていう。
ちょっと、そう思った夏の一日。



後日談


結局、あの日はあたし達三人と氷帝のみなさんで遊んだ。
実は樺地さんは跡部さんから、留守の間あたしの事を頼まれていたんだそうだ。
それで、みんなを誘って来てくれたんだって。
ちょっとビックリ!
でも、色々あったけど、楽しかったなー。


ただ、帰り道であたしは幾つか約束をさせられた。
「あの水着は跡部さんがいないところでは着ない」
「なるべく女子同士ではプールに行かない」
って言う約束。


『なんでですかぁ?』
って聞いたけど、教えてくれなかった。


ただ忍足さんによると、あの水着は大変跡部さん好みらしい。
朋ちゃん、恐るべし!





「はと小屋」のはとこさんより、111番のキリリクで頂きました!
キリ番を踏んだのがちょうど跡部の誕生日だったので、運命的なものを感じ彼をリクエストしました(笑)。

女の子同士でわいわいするのも楽しいですよね。素直じゃないヤキモチリョーマが可愛い(笑)。
そして跡部がカッコいい!水着姿で抱かれてる姿を想像し、胸がドキドキですv
朋香、跡部好みの水着まで調査済みとは・・・恐るべし!持つべきものは親友ですねv

はとこさん、素敵SSありがとうございました!!


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