『Game』



 千石清純を知っている。

ジュニア選抜にも選ばれた有望株なテニスプレイヤー。

人当たりの良い性格と明るい人柄。

他人に対しても良く気がきき、誰からも好かれている。


所謂、俗に言う『好い人』―――だ。


しかし、俺様の前ではそんな批評は通用しない。

俺様からすれば、糞くらえな事だ。

では俺様からすれば奴の印象は如何なのか?

只一言―――。


『飄々とした掴めない奴―――。』だ。


皆が聞いたら非常に不思議がるかもしれない。

人当たりの好いアイツが何故こんな言われ方をするのか?

否、俺様から言わせれば皆が可笑しいのだ。

誰もアイツの「本当の顔」に気が付いてもいやしねぇ。

俺様だけが知っているアイツの本性。

出来る事ならば知りたくも無かったが―――。


 俺様と奴が初めて逢ったのはジュニア選抜の合宿の時。

千石は聞いていた通りの奴だった。

ヘラヘラとした愛想笑いと人懐っこい態度。

誰にでも優しく、明るい柔和な雰囲気の持ち主。

所謂、俗に言う「好い人」なアイツは誰からも好かれていた。

只一人、俺様を除いては。

 俺様は、噂に聞いていた時から千石が気に喰わなかった。

そして案の定、初めて逢った時のアイツは想像以上に最悪だった。

気の良さそうな態度が俺の感情を逆撫でした。

だからあいつが、千石が嫌いだった。

傍に居るだけでイライラするタイプ―――。

出来る事なら関り合いたくないと思っていた。

自分とは考えた方も立場も性格も違う―――、相容れない者同士だと思っていた。

少なくとも自分は。

 しかし、如何やら千石は違っていたらしい。

自ら進んで俺様に関わって来た。

正直、面食らった。

今迄そんな風に俺に関わって来る者は居なかったからだ。

どちらにせよ、アイツを嫌いな事には変わらなかった。

だから俺は態度を変えなかった。

どんなに人懐っこい態度を取られようとアイツに関わる事を必要最低限にした。

練習以外でアイツに近づきもしなかったし、進んで話そうともしなかった。

今思えば俺のそうした態度も、アイツの掌の上での事だったのだろう。


 その日のアイツは何時もと雰囲気が違っていた。

しかし、俺様は機嫌でも悪いのだろうと言う程度にしか考えていなかった。

その認識が大きな間違いだった。

 ジュニア選抜の練習後、日課のロードワークをこなしている俺様をアイツは待ち構えて いた。

この時の様子を、俺様は今でもはっきり覚えている。

薄気味悪い位闇夜に映えた満月を背に、アイツは笑っていた。

その微笑みは、何時もとは違っていた。

愛想の良さそうな、人の良さそうな微笑ではなかった。

今迄見た事も無い位に酷薄そうな笑み―――。

人を見透かす様な冷たい視線。

感情の機微が全く読めなかったが、俺様は確信していた。

是がアイツの本性だと。

そして、アイツは俺がそう認識しているだろう事も理解していたのだろう。

その上での微笑み。

背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。

警戒する俺様にアイツは微笑みながら語りかけてきた。


『・・・・・・・・・・・・・・・・・跡部、俺の事嫌いだよね?』


語りかける千石の語調は穏やかで優しかったが、発する雰囲気は反していた。

怒りでもするのか―――、俺は見定めかねていた。

次の瞬間、俺様の予想は大きく裏切られた。

微笑み。

アイツは微笑んだのだ。

何時もの似非臭い微笑ではなく、無邪気な子供の様な微笑だった。

面食らって驚く俺様に、アイツは更に予想外な事を言った。


『跡部・・・・・・・・・・、俺とゲームしようよ?』


『至極簡単なゲーム――――。』


『俺が跡部を落とせるか―――、簡単だろう?』


表情さながらに無邪気に千石は語った。

無邪気に語る千石は、今まで見た事無い位にとても残酷そうでとても楽しそうだった。


【俺様を落とせるかだと―――?こいつは一体何を考えていやがるんだ?】


読めなかった。

掴めなかった、千石の真意が。

そんな不確定な状況な場合、何時もだったら馬鹿馬鹿しいと一蹴していただろう。

しかし―――。

悪くないと思った。

少なくとも善人ぶったアイツよりは。

だから、返答替わりに返してやった。

アイツと同じ位、最上級に酷薄そうな微笑を―――。


 ジュニア選抜から暫く経つが、俺と奴との腐れ縁は未だ続いている。

しかし決して本気ではない、お互いに。


「只のゲーム」だから。


どんなに傍に居ても俺達が相容れる事は無いだろう。

今までも、そして是からも。

アイツも同様に、現状維持を望んでいる。


俺達を繋ぐモノは「ゲーム」だ。

暇を満たすだけの「ゲーム」

だから、この感情は恋じゃない。

況してや愛情なんかではない。


「只のゲーム」


決してアイツになんかハマっていない―――。









蓮井奏さんにリクエストして書いてもらった小説です。
・千×部
・ジュニア選抜時代の話
・黒千石
と言う設定だそうです。

黒千石バンザイ!!\(>▽<)/
個人的に腹黒キャラが好きなので嬉しいです♪
表面的には白ですが、跡部の前で黒を出すところが萌えですね〜(*^_^*)
あの跡部様も翻弄され気味ですvv
落として欲しいです!頑張れ、千石!!!
ありがとうございました!!





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