<学園祭その後〜kiss 「忍足」>


先生に頼まれた用事をすませ教室に戻る途中、見慣れた背中を見つけ思わず声が出る。
「あっ 侑士先輩。」
「おっ 久しぶりやな。 まだ帰らへんのか?」
いつもの優しい笑顔が振り向く。
久しぶりに会う侑士先輩。 緊張して言葉が出ない。 何か言わなきゃ。 何か・・・
「あ、あの・・・ 先輩は前に付き合った人っているんですか?」
「えっ?」 
あっ・・・ 私、何でこんな事言っちゃったんだろ?
せっかく先輩に会えたのに。 言いたいことは他に沢山あったのに。
「あ あの、 なんでもないです。」
慌ててごまかしたけど先輩も驚いてるし すごく変な空気・・・。

「あっ 侑士! ここにいたのか。 ちょっと用があるんだけどさ。」
廊下の向こうから向日先輩が大声で駆け寄ってくる。
「ごめんなさい!」
くるりと振り返り逃げるように逆方向へ走り出す。
「あれ? 今の・・・  邪魔だったか?」
「すまん 岳人。 ちょっと待っててくれへんか?」
カバンを押し付け 返事も聞かず後を追いかける。

「自分 思ったより足速いんやな。 どうしたんや? 可愛い顔がくもってんで。」
「何でもないです。」
ムリに笑おうとするけど 上手くいかない。
「そんな風に見えへんけどな。 ・・・せや 今から少し時間あるんか?  ちょっと行きたい場所があるんやけど。」
「先輩の方が忙しいんじゃ・・・」
「俺の事はいいんや。  行こか?」
「はい・・・」
声にならずコックリうなずく。

先輩が階段をどんどん上がっていく。 私も急いで駆け上がる。
先を歩く先輩が、時々立ち止まっては振り向き声を掛けてくれる。
「大丈夫か? もう少しやからがんばりや。」
先輩の背中を必死で追いかけ 気が付くと屋上に出るドアの前まで来ていた。

「侑士先輩? ここから先は行けませんよ。 鍵が掛かってますし。」
「ええから見とき。 鍵をこうして・・・っと な?」
軽い音がしてドアが動く。
「この鍵壊れてるんや。 掃除中に気づいてな。 俺だけの秘密や。」
ドアを押し開けると内側の暗さとは対照的に 眩しい外の光が目に飛び込む。

「昨日の雪がかなり残っとるなぁ」
先輩が一歩踏み出しながら独り言のようにつぶやく。
「ちょい待ち。 外は寒いからこれ使い」
巻いていたのマフラーをはずし私を優しく包む。
「いいんですか?」
「気にせんでええから。」
「ありがとうございます。 あったかい・・・」
思わず声が出た。
「当たり前や 俺の愛情がこもっとるからな。 足元 気ぃつけや」
雪を踏みしめながら外へ出ると冷たい空気が全身を覆う。

「どうや? 少し寒いけど気持ちええやろ。」
「はい。 学校にこんな場所があったなんて知りませんでした。」
「秘密の場所やからな。  ・・・で、さっきの質問やけど。」
唐突に先輩が話し出す。
「もういいんです 気にしないで・・・」
「おったよ。 付きおおてた子。」
「えっ?」
「かなり前の話や。付きおおてる言うてもママゴトみたいなもんやったけどな。」
「そう・・・ ですか。」
なんとなく予想はしてたけどやっぱりつらい。
「こんな話して余計な心配させるのも何やったけど お嬢さんには嘘はつきたなかったしな。 それに昔と今の気持ちは全然違う。 わかってくれるか?」
優しい言葉なのに 胸の奥がチクッと痛む。

「・・・ごめんなさい。 最近、侑士先輩に会いたいのに全然会えなくて・・・ 忙しいのはわかってるのに会いたいって思ってて それは私のワガママで、  メールとか電話とかもらってすごく嬉しいけど でもこんなに幸せなのに  悪い事ばっかりいろいろ考えちゃって・・・ 」
今まで抑えてた気持ちが一気にこみ上げて うまく言葉にならない。

「そうか・・・ すまんかったな。 いくら急がしいゆうても同じ学校やし 5分や10分の時間作るなんて簡単なこっちゃ。  それに早く気づけばこんな寂しい思いさせずにすんだのにな。  ・・・せやけど 俺と同じ事思っててくれてたなんて なんや嬉しかったわ。」
「先輩も同じ?」
意外な言葉に思わず顔をあげる。
すこし照れくさそうに先輩がうなずいた。

「それより今 すごくいい事思いついたで。 俺らの不安が解消する方法。  簡単なこっちゃ。 雪も積もっていい雰囲気やしな。 ・・・ちょっと後ろむいてんか?」
「は? はい」
言われた通り背をむけると忍足がそっと後ろから抱きしめる。
「俺らスキンシップが足りへんかったんやな。 言葉だけじゃ足りへん言う事や。 これが俺の正直な気持ちや。 どうや? 少しは安心できたか?」
背中から伝わる温かさと一緒に安心感が広がっていく。
「もっとワガママ言っていいんやで。 せやないと俺も張り合いないからな。」
耳元に口を近づけ優しくささやく。

「侑士先輩?」
「なんや?」
「私も先輩の方 向いていいですか? 侑士先輩の事ギュってしたいです。」
「えっ? あぁ ええよ。 ・・・しかしお嬢さんはたまに大胆なこと言うわ。  天然なのか作戦なのか分からへんわ。」
「私、変でしたか?」
「ええから 気にせんとき。 こっちも願ったり叶ったりやわ。」
少しうつむきながら向き直り先輩の背中に手をまわす。

「さわり心地のいい髪やなぁ。 いい香りもするし」
先輩が抱きしめながら髪を優しく撫でてくれる。 髪をすべる指の動きが心地いい。
「こうしていると なんだか携帯電話になった気分です。」
「えっ? 携帯?」
「はい。 さっきまで電池が切れかかっていたのに、先輩に抱きしめられていると 体の中に幸せがどんどん溜まっていく感じって言うか、 充電されていく感じです。」
「充電か・・・ 面白いこと言う子やなぁ。 で、どれくらい充電できたんや?」
「うふふ まだまだ足りません。 もう少しこうしていたいです。」
「いくらでもええで。 つきおうたる。  ・・・でも俺も充電したなってきたわ。」
「侑士先輩はこうしてるだけじゃダメですか?」
「俺の場合はな、こうするんや。」
今まで髪をなでていた手が頬にふれる。
アゴを軽く持ち上げられ かがみこむように先輩の顔がゆっくり近づく。
目を閉じると 唇にやわらかい物がそっと触れる。

長いキスのあと ゆっくり目を開けると先輩と目が合い慌てて目を伏せる。
「あの・・・ 見つめられると 恥ずかしいんですけど」
「ホンマに俺の彼女は可愛いなぁ」
幸せそうな笑顔で先輩がつぶやく。
「もう 侑士先輩・・・」
見られるのが恥ずかしくて慌てて顔を胸に押し付けた。

「すっかり暗くなったし そろそろ戻ろか?」
「はい。」
気が付くと さっきまで明るかった空には星が輝き始めている。
「・・・せやけど さっきからなんや忘れてるような気がするんやけど・・・ 何やろ?」
「何ですか? ・・・そういえば侑士先輩? カバンは?」
「あ?  あーーっ! しもた!! 廊下に岳人待たせっぱなしやったわ!」
「えーー! 本当ですか? かなり時間たってますけど。」
「まぁ しゃーないな。 今は岳人よりお嬢さんの方が優先や。」
「うれしいですけど そんな事言ったらますます向日先輩怒っちゃいますよ。」
「ここだけの秘密や。 さっ 急いで戻ろか?」
ウインクしながら肩に手を回す。
「また充電しに来ような」
「はい」
(この雪が消える前にまた来ましょうね。侑士先輩。)

−END− 
 

リコさんより頂きました!学園祭の王子様その後のお話です。
さすが忍足!優しくてカッコイイですね(*^^*)v
不安になるヒロインを、言葉どおり優しく包み込む忍足が素敵でした!
そして忘れられていた岳人の存在が・・・(笑)。

リコさん、素敵SSありがとうございました!!


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