<学園祭その後〜kiss 「亜久津」>


昼間はかなり暖かかったのに さすがに夜になると肌寒く感じる。
淡い月明かりが 微妙な距離をおきながら歩く二人を照らし出す。

「今日は誘ってもらってありがとうございました。 ホントに楽しかったです。」
「あぁ・・・」 
こちらも見ずに返事をする所が先輩らしい。
「その上、送ってもらっちゃって。 この道暗いしちょっと怖いなって思ってたんです。」
「お前はトロそうだからな。 まったく世話かけさせやがって。」
「うふふ ありがとうございます。」
ぶっきらぼうな言い方だけど すごく優しい。

少し間があって 珍しく亜久津の方から話しかける。
「朝も変な男に絡まれてたな」
「えっ? あっ・・・ そうなんですよ。  待ち合わせ場所で待ってたら 突然話しかけられて腕までつかまれるし。  でも先輩の顔見たら慌てて逃げちゃいましたね。」
「笑い事じゃねーぞ。ったく。」
(もしかして、それで『送る』って言ってくれたのかな?昼間はそんな事 一言も言わなかったから 知らないのかと思ってたけど 気にしてくれてたんだ。)
怒られるのに ちょっとうれしい。

「でも先輩は約束の時間になったら 絶対来てくれるって信じてましたから、 あまり怖くはなかったです。」
先輩の顔を覗き込みながら言ってみる。
「お前は・・・ 隙がありすぎなんだよ」 
「そうですか? こう見えても結構しっかりしてるんですよ」
「いったい その自信はどこからくるんだよ」
「あーっ 先輩は私の言うこと信用してませんね?   でも・・・ やっぱり一人でいるより 先輩と一緒にいると安心できます。」
「チッ 俺が安心か・・・」
先輩が自嘲したようにつぶやいて私を見る。

その時 横で何かが素早く動いた気がした。
「えっ? なっ 何?」 
次の瞬間 いったい何が起こったか分からない。
あっという間に先輩の右手が私の腰を強引に引き寄せ 体がフワリと浮いたかと思うと  息がかかるくらい近くに先輩の顔が見えた。

「脇が甘いんだよ お前はよ・・・」

背中に回された両手が背伸びをうながすように 私の体を上へ押し上げ その手の力強さとは裏腹に 優しくゆっくりと唇が重なる。

「・・・気を抜くなって事だ。」
わざと視線をはずしながらゆっくりとかみしめるように囁くと 私の頭を左手で支え  そっと胸に押し付ける。

長い沈黙の後 亜久津が耳元でつぶやく。
「千石には気をつけろ。」 
唐突な言葉。  先輩がやきもち?
「うふふ はい。」
「太一もだ。」
「えっ? 太一君もですか?」
慌てて顔を見ようとしたけど やさしく胸に押し戻される。
「そうだ。誰にも気を抜くな。」
背中に回した腕に力が入るのが分かる。
「・・・お前は・・・ 誰にもやらねぇ」
「・・・はい。」
胸の中でかすかにうなずく。


「でも・・・ やっぱり」
「やっぱり なんだ?」
ちょっと怒ったような顔が覗く。
「先輩といる時は安心です。 今もすごく暖ったかい。」 
「チッ・・・ ふざけやがって。 いつまでもくっついてるんじゃねぇ。 帰るぞ。」
照れを隠すように慌てて背中から手を離す。 
「えっ? もう少しこうしていたいです。」
「ダメだ。 帰るぞ。」 
「じゃ 腕を組んでもいいですか?」
「フン  勝手にしろ。」
「じゃ 勝手にしますね」

先輩の腕に手をからませる。

(明日も明後日もこの先ずーっと この幸せが続きますように。)
先輩の腕につかまりながら 心の中からそう思った。

                               
−END− 
 

リコさんより頂きました!学園祭の王子様その後のお話です。
亜久津がすごく優しくてカッコいいです!
「脇が甘いんだよ お前はよ・・・」にはもうノックダウン(笑)!
千石はともかく、太一にまでヤキモチをやく亜久津が可愛かったですv(*^^*)

リコさん、素敵SSありがとうございました!!


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